<U-24特別インタビュー>
〈1〉『日本はもっと強くなれる』
池内 泰明氏
(拓殖大学男子 バスケットボール部監督)


・李相佰杯日本学生選抜チームヘッドコーチ
・U-24日本代表チームヘッドコーチ

写真:TV放送用のマイクをつける池内HC(ジョーンズカップ初戦)

スプリングキャンプについて

 学生の唯一の国際大会である李相佰杯に向けてのセレクションは、いつもはなんとなく場当たり的にして、少し練習して臨むという感じでした。なるべく多くの選手を集めて、競い合いをして選んでいきたいというのは、誰もが望んでることでしたが、それがなかなかできなかった。なので、基本的にはスプリングキャンプのような合宿ができてよかったと思っています。その時のメンバー選考は、李相佰杯のために限らず、とにかく学生を強くしていかないといけないということで、いい選考だったと思います。このスプリングキャンプの最終目的は、ナショナルチームにつながるような選手の育成ですから、そういう意味でも妥当でした。李相佰杯の選考に関しては、毎年「勝つため」に選んでいるので、その年その年の上手い選手を選ぶようになります。なので、このスプリングキャンプに選ばれていなくても、ふさわしい選手がいれば選ぶつもりでした。サッカーのように固定しないで、大会毎にメンバーを入れ替えて、競わせていくとかいうことも、必要なように思います。身長のある選手が多くセレクションされていたのは、大きい選手は育てるのが大変なんですよね。この合宿の中で、普段あまり試合に使われていない大きい選手達が思っていたよりいいものを持っていることを見せたり、逆に足りないものが具体的に見えてきたりしました。2次から3次へのセレクションは、ジェリコHC(パブリセヴィッチ日本代表HC)がもっと見てみたいというものを優先してますので、李相佰の選考に関しては、20人(3次・4次メンバー)というだけでなく、40人(1次・2次メンバー)からも選ばれる可能性があることは、選手たちにも伝えていました。

李相佰杯について
 こういうピックアップチームで、どういう風にチームとして作り上げていくかというのは、とても難しいことで、やりたいことはたくさんあるけれど、それを1つ1つしていったら、とても時間がないんですよね。本当に選手の能力を信じながら、ある程度のルールを作ってプレーさせていく、そういうことしかないのかなと思います。正直言うと、もっと細かいところもやりたいという反省が今回はあります。でも、それは時間的な問題もあると思うし、非常に難しいところですね。このチームは、選手たちの仲間意識は強いので、そういう意味では雰囲気的には非常にいいものを持っていたと思います。しかし、ファンダメンタル的なことができている選手とそうでない選手がいる場合、思っていることがすぐにはできない部分があったことは事実ですね。李相佰杯はもっと勝てると思っていました。能力的には、去年のことなどをもみても、決して日本が負け越すようなチーム構成ではないなと感じていました。そういう意味ではやることさえやれば勝てるのではないかと思っていました。しかし、結果として同点に追いつかれたり…我々のベンチワークの責任もありますが…実際は完全に2勝できるチームだったと思っています。

日本と韓国の違い-李相佰杯・ジョーンズカップを通して
 ファンダメンタルの違いです。例えばキャッチングの仕方とか、パスワークとか、シュート力とか、そういうものが少しずつ韓国の方が上手なんですね。それが何から出ているのかははっきりとはわかりませんが、経験とか、練習量とか、練習時間とか…個人練習の時間を多くとるなどをしているのかなと思います。そういう1つ1つのちょっとした力の差ですね。ジョーンズカップなどで試合を見ていると、我々の力が相手と比べてどのくらいなのか、見た感じわかるじゃないですか。むこうはフィジカルが強いなとか、シュートがよく入るなとか。そういう相手と一緒になってシュートをポンポン打っていても勝てないでしょう。そういうときこそもう少しボールを回しながら、相手にディフェンスを長くさせていって、チャンスでシュートする…そういうことが日本のチームにはできない。バスケットは習慣のスポーツですから、常日頃から練習の中とかで、いかにそういう習慣をもってやっていけるかが重要です。韓国の選手はそういうのが上手いですよね。遊びのプレーがたくさんあります。ボールがきたからシュート、次にボールがきたら、今度はパスを出す、次はまたシュートと…そういうことを彼らは常日頃からやっているのだと思います。また、ジョーンズカップの韓国戦でも、我々は正直「よく1点差で済んだな」という試合内容だったと思っています。でも、選手と話をすると、「自分達はかなりよくできていた。ディフェンスもよかった」と言っていました。実際はかなりやられているんですよ。ただ、韓国の外のシュートが入っていなかった、リバウンドも取りに来ていなかった…でも、最後の1点を争っている時にリバウンドを、それも2回も続けてオフェンスリバウンドを取られたっていうのは、一番悪い結果なのです。韓国戦でやられてはいけないことは、「ドライブインをされない」「オフェンスリバウンドを取られない」、この2つだけでした。それが、試合が決まる大事な時に全然できていなかった。選手の意識と我々の感じ方は全然違うということです。このギャップは少なくしていかないといけない。2回目のオフェンスリバウンドを取られた時に、すぐにファールに行かないといけなかった。多分あれが韓国だったら、絶対すぐにファールに行ったと思います。指示しなくてもしていたでしょう。つまり結局、経験とか、予測とか、そういうところも選手としての必要な能力なのです。

これからの日本の選手たちは何をすべきか
 まずは自分の自信の持てるプレーを持つことが必要です。そこから少しずつ広がっていけばいいのだから。ファンダメンタルについては、中学・高校からやっていかないといけない。すごく簡単なことで、ディフェンスでのスタンスやハンズアップやブロックアウト、オフェンスではしっかりミートすることや、ボールをキープすること、そして1対1へ…そういう個人個人の基本的なことができていないと、いくら戦術的なことをやっていっても、十分にはできません。ある程度若いうちからそういう知識をもっていて、そして身体ができてくれば、技術的にもぐっとあがってくる。早いに越した事はないですね。また、そういうことはやっているうちにマンネリになってきますから、再チェックを繰り返すことも必要です。ファンダメンタルのトレーニングは楽しくないものもありますから。

ファンダメンタルの強化について
 ファンダメンタルを強化していくことは、チームによって、指導者によって、考え方が違ってくるので、非常に難しいです。ただ、一般的な「構え」とか、「姿勢」とかはしっかり身につけられるはずです。そういうことを(中央から)発信していってもらいたいです。バスケットのプレーにも流行があって、その時その時でポジションや、動きが変わってきますから、基本のところだけでも抑えてもらいたいですね。

日本のバスケットボールの課題
 学生だったら、シュート力ですね。ジェリコHCのやり方ではスポットシュートなのですが、今回ジョーンズカップを見て、きちんと統計を取ったわけではないのですが、台湾とか韓国とかは8割方スポットシュートなんですね。あとの2割が1on1からとかそういうもので、基本的には3ポイントシュートって言うのは、誰かが抜いてきて、それにカバーに行ったディフェンスにつかれていた選手にパスを出してシュート、つまりスポットシュートなんです。これで十分いけるということです。スポットシュートの練習は悪くないことだと感じたし、逆にもっとたくさんやっていってもいいのかなと思いました。

選考、選手の素質のついて
 今回のU-24の選考合宿は、いまひとつよいものにならなかった。もっとたくさんの選手を集めてやりたかったです。学生とJBL両方から候補を出しましたがシーズンの関係で(大学は既にシーズンイン、JBLは秋から)、JBLのメンバーのコンディションがあまりよくなかったということもありました。
 しかし、代表に選ばれるというのは、もっと「必死」になってもいいものでしょう。自分が現役でそういう候補になっていた時、いつも誰かをライバルに感じて、「この人に勝たないと自分は残れない」「この人よりいいプレーをしないといけない」という競う気持ちがありました。でも、今の選手たちはそういうアピールをしてこないですよね。今の子達の感覚でしょうが、一生懸命やることが、あまり「カッコよく」ない。彼らなりに「がむしゃらに」やっているのでしょうが、身体全体でアピールするということがないですね。あとは、頭で「想像する力」が必要です。言われたことが頭でイメージできないといけない。指示されたフォーメーションとかを、スピードとか、タイミングとか、角度とかをイメージしないでやると、ただ動いてしまって、決して上手くはいかないものです。いろいろなことに対応していくためにも、そういう力は必要です。シュートが入った、入らないだけではだめですね。

個々の選手の差
 同じ経験をしながらも成長度が違うのは、結局「意志力」でしょう。やろうとする「姿勢」、自分で考える力、目的意識、そういうことでしょう。なにより「意識」しないとだめなのです。例えば、私が指揮を取るU-24のチームでやって、その後ジェリコHCが指揮を取るA代表のチームでやると、やり方が変わる…その時きちんとした「意識」を持っていなければやっていけないでしょう。言われればできるかもしれないけど、そういうのは長続きはしないです。「意識」を持っている選手がよくなっていくんですね。

自身が学んだこと
 ジェリコHCから学んだことは多いですね。日本はアメリカ的な考え方が主なのですが、オフェンスはともかく、ディフェンスはそれではだめなように感じていました。ジェリコHC(クロアチア出身)のやり方を通していわゆるヨーロッパの形を見ることができました。あと、彼は合宿などで、結構同じ事を長い時間やらせて、それで個々の選手たちがどう判断するか、どう動くかを見る、みたいなことをしていますね。それはなかなかいいなと思いました。我々はどちらかというと「何回やったら次」みたいな、ずっとメニューを考えていく。ジェリコHCも考えないわけではないけど、そんなにいろいろやる必要はないようなことも言っていたし、長くやって、どうやって集中力を維持していけるか、場面に合わせて自分のプレーをどう生かしていけるのか、そういう判断を求めながら練習させていくというやり方は、非常に参考になりました。

指導者に学んでほしいこと
 自分にとって、春からU-24チームを見てきたことは本当に勉強になりました。自分は経験もあまりないので。その中で思ったのは、いろいろなバスケットを勉強したほうがいいのかなということです。試合を見るのも1つだし、どこかのコーチが来たとか言う時に、話を聞きに行くとか。やはり足を使っていったほうがいいです。「自分のやり方」っていうのもあるでしょうが、流行もあるし、ほかのいいやり方もあるかもしれない。そういうことに気づけるほうがいいですよね。僕は今回ジェリコHCを見ていて非常に参考になったし、山本(Aコーチ・愛知学泉大監督)ともいろいろ話をしたり、彼からの質問を受けたりする中で、そういう見方もあるというのがわかりますよね。そういう風にいろいろなコーチと話をした方がいいと思います。「これだ!」とバスケットを決め付けるのではなく。決め付ける前にいろいろなバスケットを見て、聞いて、そしてやっていってほしいですし、また、それを選手たちに「こういうバスケットがある」「こういうものもある」と伝えていってほしいです。で、その中で自分たちはこういうバスケットをやっていこう…そういう教え方をしていってもらいたいです。「引き出し」をたくさん持たないといけないということです。だめだと決め付ける前に、いろいろなことを(いろいろな「引き出し」を使ってやっていかないといけないと、自分の尊敬するコーチがよく言っていました。

最後に
バスケット界もこれからは変わると思います。アテネオリンピックを見ても、変わってきていますよね。どんなに強い相手にも「絶対勝てない」ということはないのですから、日本はもっと強くなれます。

(2004年8月19日インタビュー)

<取材・文 渡辺美香 構成 北村美夏>

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