<U-24特別インタビュー>
〈2〉『本番の厳しさに耐えうる練習を』
山本 明氏
(愛知学泉大学男子 バスケットボール部監督)


・李相佰杯日本学生選抜チームアシスタントコーチ
・U-24日本代表チームアシスタントコーチ

写真:タイムアウト中の山本AC(ジョーンズカップ最終戦〉

スプリングキャンプについて

 素晴らしい事だと思いました。自分はこういうものを提案していた側なので、こういうことができてよかったです。U-24の枠組みが今まではなかったので、これでなにかできるのかなって思いました。
 メンバーの選考は、学生ということで、来年のユニバーシアード大会を見越してという部分がありました。あとジェリコHC(パブリセヴィッチ日本代表HC)が見てみたいという選手も優先しました。メンバーは、今年の1月15日にU-24の強化委員とジェリコHCが集まって話し合ったので、結構妥当なものになったと思います。身長が2mを超える選手はチームで主力として使われている、使われていないにかかわらず、とにかく見てみたいということで、ピックアップしました。日本の今までの状態では、目先の試合に使えるかどうかが選手を選抜する目安になっていますが、そういう意味では今年新たにそれとは違う”将来性”という選抜の項目が加えられました。何年後かにそのプレーヤーがどんな力を出していけるか、我々指導者が今は気づいてなくても、何かいいものを持っているかもしれない、それを発掘していこうという考え方です。その最初として、とにかく大きい選手を集めて、見ていこうという、そういう考え方は、自分や池内(U-24HC・拓殖大監督)さんには勉強になりました。これは取っ掛かりで、根底には、日本代表というチームを、バスケットの世界基準に合わせていくということで、大きい選手を揃えていっているわけです。それをもっと効果的にしていくには、U-18など、若いうちから大きくなりそうな選手を育てていくようにすれば、大きくて動ける選手が出できます。
 ジュニアクラス(18歳以下)は大きい子は“のろい”というか、まだ備わっていない段階なので、「お前はゴール下でセンタープレイだけやっていればいい」ということになって、ドリブルがつけない、パスが出せないということになる。そういうことからジュニア選出に出てくる選手は小さくて器用な選手ということになる。目先にある大会で勝つには、そういう選考も必要ですが、これからの日本代表選手を育てるという意味では、もっと大きい選手を動けるようにしていくこと、例えば竹内公輔・譲次兄弟がセンターでなくフォワードでやっているような、そういうような観点も必要ですね。ただ所属しているチームではその子が一番大きいのでセンターをやるようになる、それでずっときているのが、今の日本の問題だということです。そういう“将来性”を加味した選考の仕方というのを、これから根付かせていかないといけないなと思いました。

李相佰杯、ジョーンズカップについて
 李相佰杯は、ヘッドコーチの池内さんのチーム構想に合わせた選手を選びました。対韓国ということで、大きい選手を揃えるのではなく、アウトサイドの選手、3ガードができる、そういう選考でした。走れるプレーヤーを入れたいという観点もあります。でも、始まってみると思っていたよりガード陣が通用しなかったかなという感じがしました。ゲームコントロールができていなかったですね。帰ってジェリコHCにそのことを話したら、初めての国際経験というのは大抵みんなそうなる…つまりパニックになると言ってました。次にまた同じ経験をするときには、そういうことが起きるかどうか、それはわからないので、チャンスを与えていかないといけない。
 李相佰杯の準備期間としては2回の合宿のみでしたが、スケジュール的にこれが精一杯でした。もしスケジュール的な問題がなければ、10日間くらいはやりたいですね。韓国は共通したファンダメンタルがあって、違う学校の選手でも大体同じことを習っていて、という面があるのではないかという話を聞きますね。では、日本のファンダメンタルはどうなのかというと、各学校でそれぞれ違っていて、そういう面の抑え方が不十分な気がしますね。明らかに遅れをとっていると言わざるをえない。これから日本が世界と本気で戦っていくのなら、そういう強化をもっとしないといけないでしょう。
 李相佰杯の目標は、本気で全勝でした。1試合目を引き分けて、正直勝てたゲームを落としてもったいない、残念だという感じでした。次の日に自分を含め選手たちにどう気持ちを切り替えさせようかと考えましたね。日本のプレーヤーはまだ勝利に対する執念みたいなものが足りないです。力はあるのに、それが出せるだけの精神力がない。そういう意味で言うと本当は力がないとも言えます。私は、精神力がゲームの中に一番現れるのが、ディフェンスだと思ってます。ボールを追いかけることとか、ブロックアウトをするとか、相手に喰らいついていくとか、そういうことは大きく精神面が影響します。だから、精神的に強い韓国はディフェンスが粘り強いので、追い上げることができる。相手を止めて、自分たちが追いかけることができる。ファーストブレイクにつながる。実際、アジアの小さいチームでもあれぐらいはできるということです。それができれば、ジョーンズカップでの韓国のような戦い(5勝3敗・9チーム中4位)は十分できるということです。残念ながら日本にはそれがない、足りない。だから不安定な試合をする。韓国戦では、選手たちもこの間(李相佰杯)勝っているし、負けないという気持ちでいったのかもしれない。でも、ゲームの中ではポロッとミスをしたりする。ターンオーバーを22個位してしまいました。日本人の学生の不安定さというか、勝つための執念とか、責任感とかがまだ生まれていないんですね。

U-24チームのメンバー選考について

 ジョーンズカップのメンバーを選ぶ時、李相佰杯のメンバーから何人かはA代表に選ばれて抜けるのは、最初から予想していました。その補強的なメンバーとしては妥当だったと思います。町田は能力を発揮して、いい働きをした。次につながるようないいプレーができていました。加々美もいいところでシュート決めたりしていましたし。町田は経験に対して、課題や問題を見つけるという力があると思いますね。そういう頭の使い方ができる選手だから、我々も期待して、メンバーに加えました。李相佰杯の時はまだ線も細かったし、潜在的にはジャンプ力とか、ハートのよさとかが見えたので、次は絶対と思っていました。ジョーンズカップは将来性を見るという面もあるので、本当の勝負は来年のユニバで、そのための経験の場と捉えてもいましたし。
気持ちの強さは、選手だけに求めるのではなく、我々ももっとやらないといけないことがあります。もっと練習から厳しくしていかないと、いいチームはできない。いい選手を集めて、ぱっとやるっていうのでは、そういう力はついてこないですから。本番の舞台は厳しいので、それに合う、それに耐えうる精神力を、準備を、リハーサルをしなくてはいけない。それが今回全然できていなかった。誰もそういうきちんとした経験を持っていなかったというのもあります。

これからの取り組みに対する提言
 ジョーンズカップが今年と同じようにあるのなら、6月終わりから7月はじめの練習時間の確保、できれば4泊5日くらいのぎゅっと詰まった集中できるような合宿を直前に組みたいし、もちろんその中にA代表とやるような練習試合を入れていくし、外国からの招待試合みたいなものも組めるともっといいと思います。
 スケジュールの調整については、これからいろいろな機関で考えていかないといけないことです。

個々の選手が課題としてやるべきこと
 アンビションを持つこと、心が大切です。代表に入りたいという気持ちをどんどんアピールしていくこと、それは最低条件ですね。
技術的にはディフェンス力の強化が必要です。ポジションのとり方や、ヘルプ、ドライブに対するディフェンスなどを個人レベルであげていかないといけない。あとはそれぞれのチーム内でいいので、今のディフェンスの精度を上げること。そういうことをまずはきちんとやることが必要です。

自身が学んだこと
世界レベルでの見聞きができたことが、すごく大きい経験でした。世界レベルというか、代表のコーチ(パブリセヴィッチHC)と話したりする中で、一番感じたのは、やはり心の問題ですね。スプリングキャンプを見ていても、伸びてくるのはやはりそういう精神力を持っている選手だし、そういう選手でないと使えない。実際に海外の選手を見ても、基本的に強い、何をやっても挫けない、粘り強くできる、やられたらやり返すくらい、負けん気が強い…そういうのは当たり前のことですが、今回自分の目で確かめることができたし、実感もできました。それから、ファンダメンタルというか、基本的なことがとても重要になってくるということです。ジョーンズカップでもそうでしたし、韓国との試合でも、勝った試合はきちんとディフェンスを基本からできていた。やらなければ相手にやられるし、きちんとやれば通用する。そういうファンダメンタルの重要性を強く感じました。
あとは、世界の中で考えると、あまり奇想天外なことは考えず、ある程度サイズのある選手が、基本的な技術をきちんとやっていくことが大切だと感じました。
それから、選手のセレクションについても、選手の資質・能力を判断しなくてはいけない時、そのプレーヤーの能力がどこにあるかを見る視点みたいなことも、学びましたね。ポジションの適性などを見ていくことです。また、ジェリコHCから学んだ「ゲームロジック」という考え方、いわゆる「フリーランスの力」です。パターンをなぞる力ではなく、そこから外れた時、瞬時に判断して、次のプレーにつなげていくことですね。それはゲームの中ではとても重要で、そういう力を見ていくことがセレクションの上でもとても大切になってくると思いました。A代表はそういうことをしっかり仕込まれていますが、U-24はそうではない。パターンはこうで、外れたらこう、と指示しないといけない。

指導者たちへの提言
 経験するに越した事はないのですが、それが難しい。とにかく指導者自身がもっと変わっていかないといけない。そうでないと選手には求められない。では何ができるかというと…新しいことを学べる機会にどんどん参加していくことでしょうか。自分は今回スプリングキャンプを見させてもらって、本当に勉強になりました。そういうものに積極的に参加していったほうがいいです。そして、いろいろなバスケットを見ること、ヨーロッパ・韓国・台湾・NBA…そういういろいろなゲームを見て、知識を増やすことです。
 あとはジェリコHCのいう「ゲームロジック」の力をつけられるように、そういう意識を指導者みんなが持てるように、指導者育成に力を入れていかないといけないでしょう。プログラム・カリキュラムなど、もっと形作っていく必要があるでしょう。今少しずつ協会もやっていってますが、まだまだ足りないと思います。「ゲームロジック」の考え方は、大学生になってはじめても遅いと思います。もっと早くからやっていく必要があるでしょう。

(2004年8月14日インタビュー)

<取材・文 渡辺美香 構成 北村美夏>

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