モチベーションビデオ 2004.10.31 

 「私らもまだ見てないんですわ」とレイナスの主将、高橋彩子のお父さんが言えば、「恥ずかしくて私らは見えません」とお母さんが照れながら話す。

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 今季から始まったL1リーグの最終節を迎えて首位レイナスと二位のベレーザとの勝点差は1。6位の高槻が相手とはいえ負けはもちろん引き分けでも優勝がなくなるかもしれない。その試合で、レイナスの選手は、緊張を全く見せず、キックオフから得点を重ねた。6分若林、10分若林、12分岩倉、15分高橋唯、開始15分で4−0となる。

 彼女達のプレーは、明らかに先週の長野での試合とは違った。先週は最下位の大原学園に、攻め込むものの「個の力で勝負をしていた。できないのに綺麗にプレーをしようとしていた」と田口監督が話すとおり、最後の強引なプレーがすべて相手DFに取られ、シュートに行くチャンスをほとんど作ることができなかった。そして先制点を奪われる苦しい展開、後半に得点を奪い勝利はしたものの、初優勝に向けてのプレッシャーを感じさせた試合となった。「悪夢を見るかと思った」後期、FWで活躍をしている高橋唯は、試合後にそう振り返る。

 「同じ前泊のアウェイ戦、何か変えたことが」と田口監督に訊くと、特別に作ったビデオの存在を教えてくれた。監督がアイデアを出し、パソコンに詳しいコーチが作成した手製のビデオ。今季はベレーザ、TASAKIという強豪チームの試合前にも作成したらしい。ナレーションはなく、選手たちのプレーが音楽をバックに映るビデオ、近年、日本代表などでも使用されているモチベーションビデオと言われるものである。それをこの試合でも作成した。しかしその前の2試合のビデオと違うことが一つ。

 「選手たちは、見た後にみんな泣いてましたね」そのビデオには、選手たちの家族からのメッセージも入っていた。「監督や、コーチ、みんなに私たちは守られているなって」今シーズン、中盤の選手として安定した力を見せた木原梢は話す。

 家族の力、その力もあわせて、レイナスが最後の一勝を掴み、創部10年目の初優勝を果たした。


S-move編集部 谷川れい
 第1回スポーツライター新人賞受賞。三重県出身、さいたま市浦和区在住、浦和レッズをこよなく愛する29歳。自身でやるスポーツは柔道。長距離移動に強いので日本全国のスポーツの現場を伝えたいと思います。 とにかく熱い記事を。
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